<2003.8.31> 後悔を胸に

・・・・雨・・・・

早く元気になれ あの渓へ行くぞ。

病に伏せる友とのそんな約束は とうとう果される事はなかった  手にする事が終に叶わなかった

大山女魚は 今も流れの底で彼との再戦に向け 悠然と待ち構えているのだろうか。

遅くやって来る事になったこの夏 あいつの

旅立ちを見送ってから 予想外の速さで

過ぎ行く時の経過は 私を突き動かすに

充分すぎる動機と成った 彼が心に宿した

思いは 心ならずも遣り残す事となる

現世への未練として 私が引き継がなければ

いけない物となるのだろう。

その残心に終止符を打たなければなるまい

迷う事無く その地へと向かう決心が付いた

きっと リベンジするんだ。

あの日発した無念の一言が その地に置き

忘れたかの様に漂い残り 其処に立つ筈の

釣友の姿を求め 振り返る自分が居た。


夜半から落ち出した雨は さらに激しく車窓を

叩き出し 足下の渓は 闇の中から搾り出す

様な 重苦しい呻き声を発して居るが なぜか

不安は微塵も無かった そう 成るように成る

起きる時には 起きる物なのだ。


流は予想通り 荒く太い いくらも待たずに

水も 赤土色へと 姿を変えて行き もはや

この流域においては手も出せなくなる事だろう

何かに導かれるように その渓を後にした。



濁流が 川幅一杯流れ下る この場所でも

水際に足を踏み入れる事すら出来ない

取り残された 棚状のルートへ 何とか足場を

見付け 曰くつきのポイントを前にした・・・・・

此処で更に強くなった雨脚が 激しく身体を

叩き 雨具を通した雫はジワリ身体を濡らす

じっと顔を伏せその時を待った  ふと身を起こし

周囲を見回すと 嘘のように雨も止み 荒れ狂う

瀬音さえも消え去る感覚に陥る  ”今か!

増え続く水量に 鏡のようにポイントの形態さえ

もう残していない水面向け 力強く打ち込んで

やる。

荒れ狂う早朝の渓

初心者が始めて釣り上げた岩魚

木葉山女魚と遊ぶ

友に釣らせたかった
流れに乗り 早い動きで下る目印が ほんの僅か止まった 殆んど無意識の中で 大きく腕を煽った

ガツン!・・・ギューン!” 魚は一旦上流向け走ると 其処で踵を返し流に乗り下った ”まずい・・・

このまま走られたら もう付いて行く事すら出来やしない
” 其処で次に私が取った行動は 何と?

何を血迷ったか一気の引き抜きだった! しかし此れほどのサイズではやった事も無い 竿、ラインは

もつのだろうか?    最高の状態が期待出来そうなタイミングを計り 一気に早い勝負をかけた

バシャッ!”鰹の一本釣り宜しく 流芯の向こうから引き抜くと 竿の弾力を利用し足元向けて飛ばす

うっ!なむさん 友よ” 魚が宙を飛ぶ瞬間を見定める事が出来なかった ”ドスン! ドスン!

狭い足場で踊る 鼻曲り山女魚を 呆けたように見下ろしていた  混迷した思考回路からハッと我を

取り戻し ”なっ なにが起きたのだ????

現場において 常に慎重にが自分らしさと

信じて疑わなかった なんてらしくも無い

無謀な判断を下してしまったのだろう?

折れる事も無く 竿もよくもったもんだ


一段と激しく荒れ狂い出した 渓に背を

向け 歩き出すと

やったじゃん!』 何処からか聞き慣れた

友の声がしたような・・・・・・・・

                   OOZEKI